老人ホームなどに入居する時に求められる身元保証人ってどんな責任があるの?
身元保証は、通常の保証人や連帯保証人とは違います!
一般的な金銭債権の保証や連帯保証などと異なるものとして「身元保証」というものがあります。この身元保証人は,負担する内容が一般的な保証人等とは異なります。
この身元保証人の責任とはどのようなものかについてお話します。
身元保証人の負う責任の範囲とは?
なお,身元保証ニ関スル法律以外の個人の方の生活や中小企業の方の事業に関わる各種法令については,
身元保証人の責任とは?
一般的な「保証」というと,例えば貸金などの保証人や連帯保証人などを思い浮かべるかと思います。
もっとも,会社・企業に入社する際に,従業員の身元等を保証するために,身元保証人を必要とするという場合があります。この身元保証人は,上記の保証人や連帯保証人とは異なる類型の保証です。
身元保証とは,単にその身元を保証した従業員等の身元を確認するというだけの意味ではなく,その従業員等が使用者に対して何らかの損害を与えた場合,その損害賠償責任を,その従業員等と同様に負担しなければならないというものです。
身元保証人の責任の範囲の制限
一般的な保証や連帯保証は,特定の金銭債権を担保するものです。ある金銭債権が,主たる債務者によって金銭の支払いがなされなかった場合に,代わって保証人・連帯保証人がその金銭を支払うことになります。
ある特定の債権について保証が付けられるものですから,保証人が責任を負う範囲は明確です。
100万円の借金の保証人・連帯保証人であれば,最悪,責任を負担するのはその100万円のみ(なお,利息や遅延損害金についても責任は発生しますが)ということになります。
したがって,保証人・連帯保証人の側でも,あらかじめ自分が責任を負うことになるであろう範囲を明確に予測できます。
ところが,身元保証の場合は違います。
将来どのような損害が生ずるかは誰にも予測できません。
そこで,身元保証の場合には,将来身元本人の行為によって生じる損害賠償すべてを身元保証人が負担するという内容とされるのが通常です。
つまり,将来従業員である身元本人が発生させた損害すべてについて
身元保証人も責任を負担するというように取り決められるのが一般的ということです。
しかし,どのような損害が将来生ずるのかはわからない以上,
このような定め方ですと,身元保証人は,自分が負担することになる損害が一体どのくらいになるのかをあらかじめ把握することができません。
そのため,特に,使用者の被った損害が著しく大きいような場合,身元保証人が負担する責任も著しく過大になる危険性があります。
しかし,あらかじめ予測もできない事柄でそのような著しく過大な責任を負担することになってしまうことは,身元保証人にあまりに酷です。
そこで,「身元保証ニ関スル法律」によって,身元保証人が負担すべき責任の範囲は限定されています。
期間的な制限
まず第一に期間的な制限があります。身元保証人が責任を負担する期間を制限することによって,責任の範囲の拡大を防ごうということです。
身元保証契約をする場合には,期間を定めるのが望ましいとされます。つまり,身元保証人が責任を負うのは,身元本人の入社から〇年の間だけというように期間を定めるということです。
ただし,期間を定めるとしても,その期間は5年間が限度です。
5年以上の期間を定めたとしても,5年に短縮されます
もっとも,身元保証期間を更新することは可能とされています。
ただし,更新する場合も,その更新期間は5年間が限度です。
仮に,この入社からの期間を定めなかった場合には,有効期間は3年間として扱われることになります
※ただし,当従業員等が「商工業見習者」である場合は,有効期間が5年間として扱われます。
身元保証人による解除権
会社・使用者は,以下の場合には,身元保証人にその事実を通知しなければならないとされています(身元保証ニ関スル法律第3条)。
- 被用者ニ業務上不適任又ハ不誠実ナル事跡アリテ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ惹起スル虞アルコトヲ知リタルトキ
- 被用者ノ任務又ハ任地ヲ変更シ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ加重シ又ハ其ノ監督ヲ困難ナラシムルトキ
要するに,従業員等が不適任や不誠実で,実際に使用者に損害を与えるおそれがある場合,重要な職に就いたため当初企図していた以上の責任が生じる場合や遠隔地に赴任したため身元保証人が監督できない状況におかれた場合には,そのことを身元保証人に知らせる必要があるのです。
この通知を受けた場合、身元保証人は,将来に向かって身元保証契約を解除することができます。
「将来に向かって」というのは,解除した時より前に発生した損害に関する身元保証の責任は免れないという意味です。
とはいえ,解除をすれば,それ以降は身元保証人の責任を負担しなくてよいのですから,身元保証人にとっては重要な制度といえるでしょう。
その他の責任
仮に,当該従業員等が使用者に損害を発生させ,身元保証人が責任を負担しなければならなくなったとしても,損害の著しい拡大を防ぐため,裁判所は,使用者側の監督に関する過失,身元保証人となるに至った事情,身元保証人として注意をしてきたかどうか,当該従業員の地位等の変化など一切の事情を考慮して,身元保証人が負担すべき損害賠償の金額を決めることができるとされています(身元保証ニ関スル法律第5条)。
簡単にいえば,裁判所は,上記のようないろいろな事情を斟酌して,身元保証人の責任の範囲を小さくすることができるということです。
また,身元保証ニ関スル法律はあくまで身元保証人を保護するための法律です。
したがって,上記のような制限だけでなく,解釈によって,身元保証人に不利益となる取り決め