親が認知症でお金がおろせない!超高齢社会の先進認知症対策!
「もし実家の父が介護施設に入ることになったら、必要なお金をすぐ払えるだろうか」
75歳の父が何度も同じことを口にするようになったと聞いて、会社員のAさん(40代)は一抹の不安を覚えた。父はまだ元気だと思っていたが、認知症になったり怪我や病気がきっかけで要介護状態になるかもしれない。
入所費用などで大金が必要になったら、父の預貯金を使うか、最終手段として実家を売却して費用を捻出することも考えられる。しかし認知症で父の判断能力がなくなると、まとまった預貯金の引き出しや不動産の売却はできなくなる。Aさんの子どもはまだ6歳でこれから教育費もかかるから、1千万円単位の支援は容易ではない。
「元気な今のうちに手を打っておかなくては」と思い立ったAさん。円満解決への秘策として使ったのが「家族信託」だ。
親が認知症になると、資産が凍結される──。このことは意外に知られていない。
厚生労働省によると、認知症の高齢者は2012年時点で462万人。25年には約1.5倍の700万人になる見通しだ。65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になる計算で、あらゆる家庭にとって認知症は他人事ではなくなる。
家族信託普及協会の代表理事を務める司法書士・宮田浩志さんは10年に初めて家族信託に携わった。これまでに150件ほどの家族信託を手伝った経験を踏まえ、「認知症発症前に家族信託を組んでおけば資産の凍結を防げる。“資産を有効活用してほしい”といった親の想いを実現するために家族信託は最も有効なアプローチ」と断言する。
司法書士に依頼して父とAさんの意思を確認しながら契約書案を作成してもらい、司法書士と父と一緒に公証役場に出向いて信託契約公正証書を作成した。
以前は“信託”は信託銀行などが請け負う商事信託が中心だったが、06年の信託法改正(07年施行)により、一般家庭でも使いやすくなった。
●財産凍結を防げる
家族信託が注目され始めた背景には、成年後見制度による後見人の横領事件があとを絶たないこともある。
成年後見制度とは認知症になった高齢者など、判断能力が不十分な人たちを保護し、支援するもの。「任意後見」と「法定後見」の2種類があり、任意後見は判断能力があるうちに本人が後見人を選任しておく。